あー、気になる。
すごーく気になる。
めっちゃくちゃ気になる。
本気で気になる。
何が気になるかって、そりゃあナルトとソラの関係。
ナルトは絶対に、ソラに何かを言われた筈なんだ。
だからあんなに頑ななまでに、優しくされる事を拒んでいるんだと思う。
けどなあ……。
どうしようもないんだよね。
ナルトに訊いたってどうせ答えてくんないだろうし。
そこで俺が向かったのは上忍の待機所『人生色々』で。
ソラがいたらとっ捕まえて尋問だ、なんて思って来てみた訳なんだけど、居たのは生憎アスマだけで。
この前みたいに2人、うだうだと話し込む事になった。
下忍を受け持っているお陰で、俺もアスマも最近は上忍の任務が少なかったりする。
楽なのは楽なんだけど、上忍の任務が少ない分、収入もそれだけ減るって事で。
ま、これまでの貯蓄はたっぷりあるし、ナルトと一緒に過ごせるから全然チャラなんだけどね。
それにしても、ソラって結構人気者なんだな。
たまーに中忍の奴らがここ覗いては“今日もソラ上忍いねーや”なんてがっかりして帰ってくの。
何だか気に入らないなあ。
ナルトの悪口言ってるような奴が人気者だなんてさ。
まあそれはさておき、アスマにもこの前の事を話した。
「ソラとうずまきが知り合いだって?」
俺の話を聞いて、アスマは眉をしかめる。
「ああ。ナルトが言ったんだよ」
「そうか。するってーと、シカマルとリクが知り合いって可能性も高いな」
「またそっちかよ……」
未だに“シカマルとリク知り合い疑惑”を持っているアスマに呆れた。
でもまあ、ソラとナルトが知り合いなら、シカマルとリクが知り合いでもおかしくはないか。
アスマの話じゃナルトとシカマルは休みの日によく一緒にいるらしいし。
だからまあ、ソラといつも一緒にいるらしいリクが、セットでナルトと接触してる可能性を考えればね。
ナルトと一緒にいる事の多いシカマルも、彼らと接触した事はあるかも知れない訳で。
ていうか、ナルトとシカマルが仲良くしてるってのは気に入らないんだけどさ。
「それにしてもお前さ、何でシカマルとリクにこだわってんのよ?もしかしてシカマルの事が好きな訳?」
俺が訊くと。
アスマはくわえ煙草を落としそうなくらい、ぽかんとした顔で俺を見た。
俺は怪訝そうな目を向ける。
ようやく我に返ったアスマは盛大に笑った。
そりゃもう、ツボにはまりましたって感じで大笑い。
「何がおかしいのサ……」
どうして笑うのか理解できず、俺はアスマをじと目で睨んだ。
「そりゃあおめーが変な事言うからだろう。何で俺がシカマルを好きなんだよ。こえー事言うな」
「何でって……お前がシカマルとリクの関係にこだわってるからデショ」
「そりゃあ部下の交友関係は誰だって気になるだろ。けどな、シカマルの事はあくまでも部下としてしか見ちゃいねーよ。でもまあ、単なる部下じゃなく、恋敵だけどな?」
「…………は?」
今度は俺がぽかんとする番だった。
アスマの発言は意外すぎた。
27歳の男と12歳の子供が恋敵同士だなんて。
それはつまり、同じ人間を好きだと言う事で。
12歳の子供が大人相手に淡い恋心を抱くのは別におかしな事じゃない。
アカデミー時代なんかは美人の先生にそういった感情を抱く奴も多いだろうし。
問題はその逆だ。
27歳の人間がまだ年端も行かない子供を好きなら……犯罪じゃない?
笑えない。
アスマとシカマルが共通して好きな人物。
その人物は一体、何歳なんだろうね?
それよりももっと気になる事があるし。
「俺もシカマルも、同じ奴を好きなんだよ。しかもシカマルの方がかなり有利な立場にいるんだよな」
「アスマとシカマルの好きな奴って、もしかして男だったりする?」
俺は気になる事を恐る恐る訊いてみた。
今のアスマの言い方からして、相手は女ではなさそうな気がしたから。
でも、間違いであってほしいと願いつつのその質問に。
「……男で、しかもまだガキだ」
アスマは言いたくなさげにぼそりと答えた。
それを聞いた俺は思わず天を仰ぐ。
やっぱり笑えない。
そう思ってはみたものの。
考えれば俺だって、12歳のあの子供に特別な感情を抱いてる。
って事は、ナルトを好きな奴は全員、俺の恋敵って事になるんだろうか?
恋だと言っても間違いではない感情を、12歳で、しかも同じ性別のナルトに抱いてる訳だから。
「この俺とした事が同性のガキに懸想するとはなぁ……」
困ったようにつぶやきながらも、どこか嬉しそうな顔のアスマ。
おそらく、懸想しているというそのガキを思い浮かべているに違いない。
「その“ガキ”がナルトじゃない事を願っとくよ……」
疲れた顔で俺が言うと。
アスマは目を丸くした。
「やっぱりお前もうずまき狙いだったか」
「やっぱり、って何さ……」
嫌な予感的中でつい声も低くなってしまう。
何でアスマがナルトを好きなんだよ。
ほとんど面識なさそうな感じなのにさ。
しかも“お前も”って事は、ナルトにそういった感情を抱いている人間は自分達以外にもいるという事で。
アスマの恋敵のシカマルはもちろんの事。
うちの班の写輪眼君もナルトを気にしてるようだし。
紅の班の蟲使い君も、忍犬使い君もナルトには甘かったよねえ。
日向宗家の気弱な白眼の子も、分家の白眼君もそうだし。
元担任の彼はもとより、他の中忍の中にも、特別上忍の中にも、ナルトを好きな奴がいる可能性はある訳で。
ナルト……一体どれだけの人間を魅了してる訳?
まあ、全員が全員、恋愛感情とは限らないけど。
でも色々とやっかいな事になりそうだ。
ま!負ける気はないけどね。
「ところで、何でソラとうずまきが知り合いなんだ?」
「俺だって知りたいよ」
アスマの問いに、俺は答える事ができない。
ナルトとソラがいつ知り合ったのか、どうやって知り合ったのか、何も知らない。
うーん、これでもナルトの事はけっこう知ってるつもりだったんだけどねえ。
とりあえず、この前のナルトとの事を話した。
「ソラが言ってた事と全く同じ事を、うずまきが言った?」
「そう。それで訊いたら、ソラの事は知ってるってさ。けど、ソラは関係ないって」
「ソラの事までかばってんのか?」
「そう思うでしょ」
「ん?違うのか?」
「んー、何ていうか……違和感?」
俺はあの時のナルトの態度を思い出していた。
あの時のナルトの“ソラは関係ない”という言葉。
ナルトとは思えない言葉だ。
「違和感ってどんな?」
「……呼び捨てにしてたんだよ」
「誰が?誰を?」
「ナルトが、ソラの事」
俺は腕組みをして考え込んだ。
アスマも眉を寄せて考え込む。
「そりゃあ、確かにおかしいな」
「でしょ?」
「ああ。おかしい。うずまきは目上の人間を絶対に呼び捨てで呼ばねえからな。サスケがお前を呼び捨てにした時も、シカマルが俺を呼び捨てにした時も怒ってたしな」
「そういう事」
そうなんだ。
ナルトは上司である俺や、同僚の上司であるアスマや紅を呼ぶ時、必ず“先生”をつける。
特別上忍や、中忍の連中にも“先生”か、もしくはそれなりの敬称をつける。
時々例外はいるけどね……。
エビスとかガイとか。
でも基本的に呼び捨てにするのは同じ下忍仲間と、年下の連中だけ。
それなのに、年上でしかも上忍のソラを呼び捨てにするのはおかしいと思った訳。
「だから、単なる知り合いって関係じゃないような気がするんだよね」
「年上の上忍を呼び捨てにする理由か……」
アスマは難しい顔でつぶやいた。
「あんまり考えたくないよ、それ」
「何でだよ?」
「年上の上忍を呼び捨てにする理由なんてさ。身内じゃないなら……」
「ああそうか。恋人かも知れねえって事か」
「ま、そういう事。けど、それも考えられないんだよ」
俺もアスマと同じように、難しい顔になる。
ソラとナルトが恋人同士な訳がない。
「そりゃま、そうだろうな。自分の事を卑下して言うならまだしも、恋人の事を“好きになる権利も好かれる権利もない”なんて言う奴はいねーよ」
アスマは腕組みをしたままそう言って、ひとりでうんうんと納得した。
ま、そういう事。
2人が恋人同士って事はあり得ない。
アスマの言うように自分を卑下してんならまだしも、恋人の事をそんなに酷く言う奴なんていないでしょ。
……ん?
何だろう。
何だか、胸につかえるものを感じる。
言いようのない違和感。
何だろうね一体。
「どうかしたか?」
考え込んでいると、アスマが顔を覗き込んできた。
「いや。あのさ、やっぱりこれは……」
「これは?」
「ナルトは話してくんないだろうから、ソラに訊くのが手っ取り早くない?」
「そりゃそうだ。で、そのソラの居所は誰に訊くんだ?」
俺が指を鳴らすのを見て、アスマは目を細めてそう言う。
ソラがどこに住んでいるのか、俺もアスマも知らない。
でもさ。
俺はにやりと笑った。
「火影様なら知ってるデショ」
「あのなあ……そう簡単に教えてくれると思うか?しかもお前に」
「俺にって何さ」
「お前が三代目に何か頼む時は、ロクでもない事を考え付いた時くらいだろ。どうせ今回も教えちゃくれないぜ」
アスマもにやりと笑って言い返してくる。
何さ、その言い方。
ま、確かにその通りなんだけどさ。
でもアスマに言われると何かムカつく。
「じゃあさ、アスマが訊いてきてよ」
俺はそう言ってにっこり笑った。
さあ、アスマはどう出るかな。
「そうきたか……仕方ねーな」
「うわ。珍しい」
「何だよその目は」
「いや、お前が俺の頼みをあっさり聞くなんてさ。雪でも降るんじゃないの?」
今、夏だけどね。
そのくらい珍しいって事で。
「うずまきと関係があるからな」
「ふーん。好きな子の事になるとお前も変わるねえ」
「おめーもだろ」
俺がからかうように言うと、アスマは鼻で笑った。
そして、そのまま立ち上がると待機所を出て行く。
「行ってらっしゃ~い」
俺はアスマを見送った後、のんびりとコーヒーを飲んだ。
それにしてもアスマがナルトを好きとはねえ。
意外と意外だった。
って事は、アスマ以外にもかなり意外な奴がナルトを好きな可能性もあるって事で。
元担任のイルカ先生……は意外どころか一番やっかいなライバルだよな~。
特別上忍のハヤテにゲンマにライドウ……はそんなに意外でもないか。
となると、アンコとかアオバとかイビキ?
中忍で意外な奴らは……イワシとか、トンボ?
コテツとイズモはナルトを猫可愛がりしそうな感じだからなあ。
ガイやエビスはどうだろう。
エビスはありそうだな。
下忍は……ほぼ全員?まさかね。
万年下忍の連中は除外してもいいかな。
それでも、ライバル多すぎ。
探せば探すほど出て来そうで嫌だな。
ま、それだけナルトは人を惹きつけるものを持ってるって事なんだろうけどね。
しっかし、性別も年齢も超越してるよなあ。
ナルトと接していく内に、知らず知らず虜にされるんだろうな。
本人は無自覚だけど、ほんと可愛いし。
意志の強い蒼い目は皆を魅了して止まない。
全員が恋愛感情じゃない事を祈っておこう。
虚しい気もするけどサ。
しばらく考え事に耽っていると、アスマが戻って来た。
苦い顔してるね。
「その様子じゃ、あまり首尾は良くないみたいだな」
目の前に座ったアスマに言うと。
「最重要機密扱い、だとよ」
「は?何が?」
「ソラの情報だよ。リクもだったな。他の暗部の事は訊かなかったが」
「何よそれ。俺が暗部にいた頃はそんなのなかったけど?」
確かに一切の素性は極秘扱いではあったけど、そこまで厳重じゃなかった。
いつからそんな扱いになったんだろう。
「俺にもわかんねーよ。わかってる事はひとつだけ」
「何?」
「これ以上三代目に訊いても、無駄って事だ」
「自分達で調べるしかないって事か」
「そういうこった」
アスマは疲れたようにため息をついた。
「ま、今日はもういいや」
俺が立ち上がると、アスマも立ち上がる。
ソラは現れそうにないからここにいても仕方ないしね。
だったらナルトのとこにでも行ってた方がいいし。
任務が休みの今日、ナルトは多分どこかで修行してる筈。
偶然を装ってナルトのとこに行って。
まさかアスマまでそんな事考えてないだろうな。
そう思ってアスマを見ると。
視線がばっちりぶつかった。
おそらく俺と同じ事考えてたな、こいつ。
「うずまきのとこに行こうとか思ってるか?」
「もちろん。そういうアスマはどうなのさ?」
「お前と同じだ」
「やっぱり……」
お互いにじと目で睨みあいながら待機所を出る。
何でこいつと一緒に歩かなきゃいけないのさ。
なんて思うけど。
さっさと瞬身の術でも使えばいいんだけど。
ライバルの動向は気になる訳で。
お互いに、腹の探り合い。
こんな事してる内に他の奴らに先越されそうで嫌なんだけどさ。
もしかしたらシカマルあたりが一緒に修行してるかも知れないし。
サスケに誘われても付き合うだろうし。
シノには何故か無条件で懐いてるしなー。
「なあ、カカシ」
「ん?」
「お前は本気でうずまきの事好きなのか?」
「本気だけど?」
「そうか」
「そういうアスマはどうなのよ」
俺が睨むと。
「冗談で同性のガキに懸想するかよ。本気じゃなけりゃ、こんなに悩まねーよ」
アスマはぶつくさとそう言った。
あ、一応悩んでんだね。
「恋敵多いなあ」
「同感だ」
「諦める気はない訳?」
「死んでもないな」
「あ、そう」
脱力だよ。
ライバル多過ぎるし。
それでも、引き下がる気もなければ負ける気もないけどね。
「ナルト、どこで何してるかな~」
「シカマルんとこに行ってそうで嫌だ」
「ん~、同感」
シカマル以外の奴のとこでも嫌だけどね。
だってさ、ナルトって皆に好かれてるだけじゃないから。
ナルトも皆を好きな筈だからさ。
誰に横取りされるかわかんないじゃない。
大人な俺でもかなり焦るよ。
そんな事を考えていると。
「何で、うずまきなんだろうって思った事はあるがな」
唐突に、アスマが言った。
俺は思わず目を見開いてアスマを見つめる。
何で、どうして、ナルトを好きになったんだろうって?
同性でしかも子供のナルトを。
憎い九尾を封印された、可哀想な子供。
ナルトと直接会うまでは俺も憎んでた。
里の連中と同じように、九尾とナルトを同一視してた。
会ってすぐに、その感情は消えちゃったけどね。
余りにも純粋だったから。
訳もわからず周囲から憎まれ続けて生きて来たのに、どうしてあんなに純粋でいられるんだろうって。
そう思った時、自分の感情が余りにも醜いものだと気付いた。
それからはもう、目から鱗って感じ?
惹かれるのは早かった。
接して行く度にどんどん惹かれて。
でもさ。
どうしてこんなに惹かれたのかなんて、考えたってどうにもならない事でしょ。
だってナルトを好きになったのは。
「ナルトがナルトだから、デショ」
俺は肩をすくめてそう言った。
何で、なんて深く考える必要なんてない。
純粋だからとか、優しいからだとか、可愛いからだとか。
そういうのは関係ない。
そんな理由付けなんて必要ないし、意味ないよ。
ナルトがナルトだから。
だから惹かれて、好きになったんだろう。
俺の言葉に、アスマは笑みを浮かべる。
「そうだな」
「それじゃま、ナルトの所へ行きますか」
「ああ」
「抜け駆けはナシよ」
「そりゃ俺のせりふだ」
アスマはじろりと俺を睨んだ。
俺は再び肩をすくめる。
ま、抜け駆けしてもお互い様って事で。
俺達は2人して『人生色々』を後にした。