「なあ、シノってば、何か別のものになるとしたら何になりたい?」
ナルトがそう訊いてきたのは、夕食の席。
シノは現在、恋人であるナルトの家で夕食をご馳走になっていた。
独りだとラーメンが主食になってしまうナルトだが、食べてくれる人間がいると料理をするようで。
シノに手料理を振る舞うようになってから、料理の腕はぐんと上がったようだ。
「別のもの?忍以外のものという事か?」
そんな、美味しい手料理を食べながら、ナルトに訊き返す。
「んー、そういうのとは違うってばよ」
「それでは何の事だ?」
「あのさー、この前シカマルに、借りてた巻物返しに行ったってばよ。そしたらシカマルの奴、屋根の上で雲眺めててさ。雲眺めながら“雲になりてぇ”とかつぶやいてんだってばよ」
「シカマルらしいな」
「だろ?で、シノはこんなふうに何か別のものになりたいって思った事ある?」
ナルトは興味津々といった顔でシノを見る。
シノは少し考えた。
なりたいものなんて、と考えてふと思いついた。
それは。
「特に考えた事はないが、お前を取り巻く存在なら何になってもいい」
シノはそう言ってナルトを見つめる。
ナルトを取り巻く存在。
それが何であっても構わないから。
常にナルトの傍に居られるものになりたい。
しばらく考えてようやく理解したのか、ナルトは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせてシノを見る。
「は、恥ずかしい事言うなってばよ……」
ようやく紡ぎだした言葉は、照れているのがありありとわかるもので。
シノは微かに口元を綻ばせた。
ナルトはいつも可愛い反応をする。
それが見たくてわざと照れるような事を言っているのだが、当のナルトはその事に全く気付いていない。
「それで、ナルトは?」
「へ?」
「なりたいもの」
「俺?俺はさ、シノの……奇壊蟲かな」
「俺の奇壊蟲?」
「うん」
ナルトはまだ照れているのか、赤みの残る顔で答える。
シノはナルトのその答えに首を傾げた。
奇壊蟲は特殊な蟲ではあるが、所詮はただの蟲だ。
束になれば力を発揮するが、1匹1匹の力は微々たるもの。
どうしてそんなものになりたいのか。
強いものに憧れるナルトとは思えない発言だと思った。
シノはわずかに眉を寄せる。
ナルトはそれに気付かず、言葉を続けた。
「だってさ、奇壊蟲って、シノの体内にいるじゃん?それでさ、シノのチャクラで生きてて、シノのために命を捨てて戦ったりしてさ。シノに自分の全てを捧げてるって事じゃん。それってすごい事じゃねー?」
小さくそう言って、顔を真っ赤にする。
「……ああ」
シノはナルトの赤い顔を見て、ナルトの言いたい事を理解した。
口元が綻び、自然と柔らかな笑みが浮かぶ。
とんでもない告白をしてくれるものだと。
驚きつつも頬が緩むのを止められない。
傍から見てもただの微笑にしか見えないのだが、ポーカーフェイスが常のシノにとっては喜色満面の表情。
「だからさ、もし何か別のものになれって言われたら、俺は間違いなくシノの奇壊蟲になるってばよ」
照れながらも、はっきりとシノを見つめてそう言うナルト。
シノに自分の全てを捧げたいと。
そういう事だ。
愛してると言われるよりも嬉しい言葉かも知れない。
本人にはそんな凄い事を言ったという自覚などないだろう。
純粋に、シカマルが雲を見て雲になりたいと言うのと同じ感覚に違いない。
無自覚とはいえ、ナルトの方こそ恥ずかしい事を言っていると思う。
いや、無自覚だからこその言葉なのだろうか。
そんなナルトに、シノは言いようのない愛しさを感じた。
意識して言われるよりも、余程ナルトの本心を表していると思った。
そして。
真面目な顔で。
「今のはプロポーズと取っていいのか?」
そう言って。
ようやく火照りの引いたナルトの顔を、再び真っ赤にさせた。
終。