「殺意」


 殺意と殺気は似てるけど違うってばよ。
 俺ってば最近、この違いがわかるようになってきたんだ。
 殺意っていうのは、相手を殺してやりたいって思った時に芽生えるもので。
 怒りとか憎しみがもっと強くなったもの。
 殺気っていうのは、相手を威圧する時とかに放つもの。
 俺、殺気はいまいちわかんねー。
 けど、殺意にはすっげー敏感になったってばよ。

 例えば、任務でカカシ先生がいつものように遅刻して来た時。

「やあ、おはよう諸君!今日は人生という道に迷ってな……」

 嘘ってわかる言い訳に、サクラちゃんと2人でツッコミ入れて。
 頭をかきながら俺たちを見る先生の目が。
 俺に向けられた時、一瞬だけ鋭く光る。
 ああいう視線、俺はいっつも向けられてるからもう慣れっこだけど。
 あの時の先生の目に浮かぶのは殺意。
 俺を殺してやりたいって思ってるって事。
 そのくらい、俺を憎んでるって事。
 先生の大切な人を沢山殺した九尾が俺の中にはいるんだから。
 俺は九尾じゃないけど、九尾を憎む人から見ればそれはどうでもいい事。
 だから、先生に憎まれても仕方ないと思う。
 なのに。
 何で?
 何で先生、俺に優しくしてくれんの?
 殺したいくらい、憎んでるんだろ?
 それなのに先生ってば、すっげー優しいの。
 イルカ先生みたいに頭を撫でてくれたり。
 任務が終わったら一楽に連れて行ってくれたり。
 そんな優しい時の先生の目には殺意はなくて。
 ちゃんと優しい目をしてる。
 上辺だけの演技とかじゃなくて、ちゃんと優しい目なんだ。

 わかんねーってばよ。
 わかんねーけど。
 時々、鋭い目で俺を見る。
 その時の。
 先生のソレが殺意だって事だけはわかるんだってばよ。

 でも、気付いてるって悟られちゃいけないから。
 いつでも笑顔で頑張って。
 笑顔しか見せないように気を付けて。
 先生からすれば憎んでる奴の笑顔なんか見たくないかも知んねーけど。
 笑顔だけじゃなくって、顔すら見たくないんだろうけど。
 それでも、俺はカカシ先生が好きだから。

 だから。

「カカシせーんせー、一楽奢って!」
「カカシせんせぇ、修行見てほしいってばよ!」
「カカシ先生、大好きだってばよ!」

 自分の気持ちは隠さない。
 もっと憎まれる事になっても。
 この気持ちだけは伝えておく。
 いつ殺されてもいいように。

 だからもう大丈夫。
 気持ちはたくさん伝えたから。
 いつ殺されても大丈夫。
 覚悟はできてるから。
 いつでもいいよ。

 ねえ。
 先生。
 明日こそは俺を殺してくれる?



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