最近、殺意を覚える事がよくある。
どんなに怒りを覚えても、どんなに憎しみを覚えても、それが殺意に変わるような事は今まで滅多になかったのに。
殺意を覚えるのはほんの一瞬。
例えば、任務に遅刻して行った時。
「やあ、おはよう諸君!今日は人生という道に迷ってな……」
くだらない言い訳に、サクラとナルトがツッコミを入れてくる。
そんなナルトの。
首筋に残る痣を見た瞬間。
任務や修行でついたものではない痣だと、容易にわかるもの。
人の手形だとわかる痣。
そんなものを見てしまった時。
この子供にそんな痣を付けた奴に対して、言いようのない怒りと憎しみと、そして殺意を覚える。
誰にやられたのか。
訊いたってナルトはきっと答えない。
答えないで、適当に誤魔化して笑うから。
気付かせないように、笑うから。
かと言ってこちらが訊かないでいれば、自分から話すかと言えばそうじゃない。
自分の傷は、いつだってひた隠しにして。
笑顔の仮面を被って、誰にもそれを気付かせないようにするから。
誰がこんな仕打ちをするのか。
腹が立つ、なんてレベルの話じゃない。
殺意に近い怒り。
いや、きっとこれは完全に殺意。
そして自分に腹が立つ。
こんな事しょっちゅうなのに、いつだって助けてやれなくて。
守ってやれないでいる。
下忍の任務の後は上忍の任務が入っている事が多いから。
そういう時に限って、この子はあんな仕打ちを受けている。
もどかしい。
歯がゆい。
助けを求める事をしない子供だから、こちらが気付いてやれないと防ぐ事はできない。
それにこの子供は、暴力を受けても抵抗しない。
その事にも腹が立つ。
けれど。
必要以上に傷つかないために抵抗しないのだろう。
抵抗したら暴力は増すだけだから。
こんな仕打ちをするのが一般の里人なら。
抵抗しなくてもそれほど大事には至らない。
忍でない人間はチャクラを練るなんて事はできないから。
普通の暴力なら、殴られる部位、蹴られる部位にチャクラを集中させていればダメージなんてほとんどないから、大した怪我にはならない。
翌日まで残るような痣にはならない。
だけど、相手が忍だったなら。
そういう訳にはいかないだろう。
相手もチャクラを練る事ができる。
だから、1日経ってもナルトの体には痣が残っていて。
つまり、ナルトにこんな痣をつけた奴は。
忍、もしくは元忍であるという事。
信じられない。
九尾の器だというだけで。
忍とはいえ、見た目も中身もまだ12歳の子供の、その、か細い首を。
チャクラを集めた両手で締める事に、躊躇いはないのか。
忍ならば。
忍だからこそ。
この子供は九尾を封じるための器にされただけであって、決して九尾そのものではない事。
それがわからなければいけないのに。
どうしてわかろうとしない?
どうして殺そうとする?
殺せばどうなるかわかっているのか。
この子に施された複雑な封印式は。
九尾のチャクラをこの子に還元させているけれど。
封印の維持にこの子のチャクラを必要としている。
もし、そのチャクラが途切れたら?
もしかしたら、封印が解けてしまうかも知れない。
それをわかっていて、その上で暴力を振るっているのか。
殺そうとして、でも殺さない程度に。
誰かはわからないけれど、最低な奴ら。
そんな奴らに対してやり場のない怒りと殺意が膨らむ。
向ける相手のいない殺意が、胸の内で燻っている。
いつ爆発してもおかしくないくらいに。
落ちこぼれに見せかけて人の感情に聡いあの子は。
おそらく、この殺意に気付いている。
そして、自分への殺意だと勘違いしているかも知れない。
その事に気付いたのは、俺が殺意を覚えた瞬間に、あの子が肩を微かに震わせた時。
憎悪に敏感すぎる事を忘れていた訳じゃない。
けれど、気付かせてしまった。
そうじゃない。
そうじゃないから。
だから、そんな悲しげな笑顔を見せないで。
そんな泣きそうな顔で好きだって言わないで。
誤解したまま、悲しまないで。
俺もお前の事、好きなんだから。
だからこそ、こんなにも強い殺意を覚えるんだ。
お前を傷つける、全てのものに対して。
だから。
明日、ちゃんと誤解を解くよ。
だから。
もう、悲しげな笑顔は見せないでね?