ねえ。 どうしたらいいの? 死ねって言われて。 わかりました、って死ねる訳なくて。 だって、自分は、死んではいけないでしょう? だって、自分は、“器”なのだから。 器が壊れたら、中身は零れるものでしょう? 器が壊れて、器と一緒に中身も壊れると言うのなら。 死ねって言われて。 わかりました、って死ねるよ。多分。 でも、違うでしょう? 器が壊れたら、中身は零れてしまうから。 零れた中身は、きっと里を再び滅ぼそうとするでしょう? だから。 死ねって言われて。 辛くたって。 耐え難くたって。 生きているのに。 それでも、死ねって言う。 死ねる訳がないでしょう? なのに、生きていちゃいけないの? 死んじゃいけないのに。 生きていちゃいけないの? ねえ。 どうしたらいいの? 死ねばいいの? 死んじゃいけないの? 教えてよ。 カカシ先生? 「……っ」 「ねえ。どうしろって言うんだってばよ?」 見つめてくる、蒼い青い、瞳。 いくら考えても。 返せる答えなんかどこにもなくて。 「俺、生きてちゃいけないのに。死んじゃいけないんだってばよ」 淡々と言いながら、寂しげに自分を見つめる蒼い瞳。 生まれてこの方、この子はどれだけの耐え難い仕打ちを受けてきたのだろう。 死ねと言われて。 でも死んではいけなくて。 でも生きていちゃいけなくて。 こっちが訊きたい。 どうしたらいいんだろうね? どうしたらいいんですか? ねえ。 教えてくださいよ。 四代目? 空を見上げたって、答えは返ってこない。 この子供の瞳のような青が広がるだけで。 「お前は……死にたいの?」 震える声で、訊いてみる。 どんな答えが返ってくるのか。 怖かったけど。 でも、訊かずにはいられなくて。 「死にたくはないってばよ」 返ってきた答えに、安心した。 「でも」 でも、その後に続く言葉に。 「俺が死んで九尾も消えるなら、それでこの里の皆が幸せになれるなら、死んでもいいかなって思った事はあるってばよ」 絶句して。 子供は、大変な物を腹に抱える“器”で。 その事を知っていて。 里の大人たちの迫害に耐えていて。 考えている。 自分は生きていていいのか。 死んだ方がいいのか。 九尾が復活するかも知れないなら、死ねない。 九尾が消えてなくなると言うのなら、死んでもいい。 でも。 考えても。 いくら考えても。 答えは出ないでしょう? どっちがいいのかなんて。 誰にも答えられない。 答えるとしたら。 どうせ里の人間達は。 “どっちも”としか言えないでしょう? そうやって、そういう事さえも。 この、既に大変な物を抱えている子供に。 まだ背負わせようとする。 選べる訳がないのに、選ばせようとする。 罪も罰も、全て背負わせて。 死んでほしいと言う大人。 死ねと言いながら暴力を振るう大人。 でも、もし腹の中の物が出て来たら。 それは恐ろしいから、殺す事はできなくて。 ただ暴力を振るって。 死ねだの言って。 殺せない事なんて棚に上げて。 それで、死ねと言う。 殺せないけど、死んでほしいなんて。 だけど、死んじゃいけないなんて。 どうしろって言うの? だから子供は、どうしたらいいのかわからなくて。 自分の上司に訊いた。 「俺ってば、九尾の器じゃん。だから生きてちゃいけないのかなって思う」 「でも、もし封印が解けたら大変だから、死んじゃいけないんだって思う」 「生きてちゃいけないのに、死んじゃいけないの。どうしたらいいんだってばよ?」 子供は再び同じ問いを投げかける。 答えなんてどこにもないのに。 上司ならきっと答えてくれると信じて。 上司はそんな子供の心を少しでも軽くしたくて。 一生懸命、考える。 答えは出そうにないけれど。 どう答えれば、この子供の負担が減るのか。 頭をフル回転。 Sランク任務でも、ここまで頭を使う事はないかも知れない。 そのくらい、考えて考えて。 そして出した答えは。 「生きなくていいし、死ななくていいよ」 「………え?」 予想外の上司の答え。 子供は目を見開いて固まる。 そんな子供を、上司はゆっくりと抱き締め。 「死ね、なんて言う奴らの為に死のうとしなくていい」 「九尾の封印を気にしながら生きなくていい」 ゆっくりと耳元で囁いて。 体を少し離して、小さな唇に口付け。 真っ赤になる子供を、再び抱き締めて。 「お前の命はお前だけのものだから」 「だから、自分の為に生きて、死ねばいいんだよ」 「九尾の封印の為に死んじゃいけないとか」 「里の人間の幸せの為に生きてちゃいけないとか」 「そんな事、考えなくていいから」 「お前はお前の忍道を貫いて、生きたいように生きればいいから。ね?」 あやすように、子供の背中をさする。 子供は、小さく、本当に小さく、うなずいた。 薄い肩を微かに震わせて。 だって、この子供は。 背負わなくていいものを背負わされて。 生きている間中、ずっと犠牲にされ続けなきゃいけなくって。 認めてもらいたくて認めてもらえなくて。 殺意のこもった眼差しを向けられて。 憎しみのこもった目で睨まれて。 死ねって言われる事が。 どれだけ辛い事か。 里の人間はこの子にどれだけ酷い仕打ちをしているのか。 辛くない訳がないのに。 傷つかない訳がないのに。 なのにそれを受け入れて。 それでもまだ誰かの為を考えてる。 そんな必要ないんだよ? お前はお前の為に生きて、死ねばいいんだから。 誰かの幸せよりも、自分の幸せを考えて。 何も気にしないで生きていてほしい。 お前を必要としている者は、けっこう多いんだよ? 俺も、お前の事が必要なんだよ? それってつまり。 お前の幸せが、彼らの幸せ。 お前の幸せが、俺の幸せ。 それをわかってね? 俺はお前の為に生きて、お前の為に死ねるよ? お前を想う自分の為、だけどね。 |